雪だるま式に増え引き継がれる「やる気の複利」

私は芸術系の大学で、デザインの授業を担当している。実習ではある課題に対して、過去の参考作品を見せることがある。もちろん作品は優秀で、クオリティが高い。

参考作品を見せる理由は、課題で求めている意図や方向性を示すことができ、学生にとっては「求められる到達レベル」を知る手がかりとなり、やる気に火をつけることにもなるからだ。

以前は違う考えを抱いていた。過去作品を見せることで「このレベルを作れば良いのだろう」と、力を100%発揮せず、そこそこの力で済ませる学生が多くなってしまうのではないかと。しかし、実際は異なる。

作業の初めにラフスケッチを見せてもらうと、クロッキー帳の数ページに渡ってアイディアを書き出し、深く広く考えを巡らせていることがわかる。その内容は、参考作品と似た方向性で更に上を目指すケースもあれば、あえて誰もやっていない異なる表現を狙う場合もある。

この傾向は、特に卒業制作で顕著で、ここ数年は年を追うごとに作品は大型化し、細部のつくり込みも緻密になり、全体的な完成度は年々確実に向上している。

毎年卒展の時期には、下級生たちに必ず足を運ぶよう促している。そして、実際に作品を目の当たりにした学生たちが、数年後「作る側」に回ったとき、「過去の作品を超えてやろう!」と奮起する。先輩たちが残した刺激が後輩たちのやる気に火をつけ、代を経るごとに雪だるま式に増える「やる気の複利」となっているのだ。

「複利」とは本来、金融の世界の言葉で、元本だけでなく発生した利息に、さらに利息がつく仕組みのこと。作品づくりに置き換えれば、過去の優秀作品に触発されて、より高いクオリティの作品が生まれ、それがまた次の学生の熱量を引き出すプラスの連鎖になる。年を追うごとに熱量が上乗せされて、クオリティの向上が続いていく。

学生にしてみれば過去のレベルが上がるほど、それを超えるための労力や手間が増え、たまったものではないだろう。でも、そのプレッシャーをはね退け、驚くような表現を生み出す学生も少なくない。まさに「やる気の複利」がよい循環を生み出している。

2回生の授業で課題のラフスケッチを確認していたところ、ある学生が「卒展のあの作品、めちゃカッコよくて見入ってました」と言うので、その作品を作った卒業生が、同じく2回生の時に作った課題作品を見せたところ、えらく感激していた。

このように学生が卒業して大学から居なくなり、本人すらその作品を作ったことを覚えていなくても、次の誰かに影響を与え「やる気の複利」が続くのだ。

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投稿者 yamaji

大阪在住のデザイナー、大阪芸術大学非常勤講師。Web、グラフィック、動画、文章書き、ネットショップ運営。Photoshop、Illustrator書籍、雑誌記事執筆、Web&デザインセミナー開催多数。

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